消費税の原則課税と簡易課税

消費税の原則課税と簡易課税

消費税の課税事業者は納税額を計算して申告書を提出し、消費税を納税する義務があります。
納税額の計算には、原則課税と簡易課税のふたつの方法があります。
要件を満たせば簡易課税で計算をすることが可能です。
選択が可能な場合には、それぞれの有利不利を見極め、今後の事業の見通しを立てたうえで慎重に検討する必要があります。

目次

  1. 原則課税とは
    1. 原則課税のメリット・デメリット
  2. 簡易課税とは
    1. 簡易課税のメリット・デメリット
    2. 簡易課税が選択できる条件
    3. 簡易課税の取りやめ手続き
  3. インボイス制度開始後は「簡易課税がおすすめ」
  4. まとめ

1. 原則課税とは

消費税の課税事業者が事業を行っている場合、利益に対して発生する税金とは別に消費税を納税する必要があります。
基本的な考え方として、年間の納税額は下記の計算式で計算します。

消費税の納税額 = 売上で預かった消費税 ― 経費で支払った消費税

この計算方法を原則課税といいます。
(一般課税や本則課税という場合もあります)
原則課税は、その名のとおり「原則」の計算方法で、簡易課税が特例です。
簡易課税が選択できない場合には、自動的に原則課税が適用されます。

1-1. 原則課税のメリット・デメリット

原則課税を使うメリットは下記のとおりです。

  • 経費の支払いが多い場合、納税額が少なくできる。場合によっては還付も見込める

原則課税を使うデメリットは下記のとおりです。

  • 取引ごとに消費税の取り扱いを意識する必要がある
  • インボイス制度開始後は、インボイスの保存要件や取り扱いも意識する必要がある。

2. 簡易課税とは

簡易課税での納税額計算は、原則課税における「経費で支払った消費税」部分の計算が異なります。

原則課税は、「実際に経費で支払った消費税」を細かく集計しますが、簡易課税では「売上で預かった消費税」にみなし仕入率を乗じて「経費で支払った消費税」を計算します。
経費を細かく集計しなくて良い、売上の消費税の集計と分類をすれば良い、という点が「簡易」な制度、というわけです。

みなし仕入率は事業の種類ごとに設定されています。

消費税の納税額 = 売上で預かった消費税 ― 売上で預かった消費税×みなし仕入率

美容業の場合、お店のカット代などの技術売上はサービス業として第5種事業に該当し、店販などは小売業として第2種事業に該当します。
第5種事業のみなし仕入率は50%、第2種事業のみなし仕入率は80%です。

一般的な美容室では、技術売上が占める割合が大きいので、簡易課税で納税額を見積もる際は、ざっくりと売上で預かっている消費税の50%が納税額になると考えるとわかりやすいと思います。

2-1. 簡易課税を選択するメリット・デメリット

簡易課税を選択するメリットは下記のとおりです。

  • 経費が少ない場合、原則課税よりも納税額が安く抑えられる場合がある
  • 経費に含まれる消費税を意識する必要が無いため、事務の手間を抑えられる
    (インボイスの保存要件も意識する必要が無い)

デメリットとしては下記のとおりです。

  • 経費の支払いが多くても、還付が発生しない
  • 一度選択すると、強制的に二年間は継続適用となる

2-2. 簡易課税が適用できる条件

簡易課税は誰でも適用できるわけではありません。
適用するためには下記の条件を満たしている必要があります。

  • 基準期間の課税売上高が5,000万以下である
  • 年度の開始前日までに「消費税簡易課税制度選択届出」を管轄の税務署に提出する。

また、その他の細かい要件として、下記の高額特定資産、調整対象固定資産の取り扱いについても気を付ける必要があります。
(小規模な美容室であれば、下記の事項は特に意識する必要は無いかと思われます)

  • 過去三年分の事業年度で、原則課税を選択している年度に高額特定資産(一単位で1,000万円を超える資産)の購入が無い
  • 過去三年分の事業年度で、「消費税課税事業者”選択”届出」を提出したうえで原則課税を選択している年度に調整対象固定資産(一単位で100万円を超える資産 ※棚卸資産は含まない)の購入が無い

簡易課税制度は小規模な事業者の事務負担の軽減を目的として作られた制度のため、売上規模が大きな事業者は適用できず、本来の原則課税で納税額を計算することになります。

一般的な美容室では、年間売上が5,000万以下であれば、簡易課税を継続適用し、事務作業の手間を減らして経営されている方が多いです。

2-3. 簡易課税の取りやめの手続き

簡易課税制度を選択している場合、取りやめたい年度の開始前日までに「消費税簡易課税制度選択不適用届出」を管轄の税務署へ提出すれば、原則課税に切り替えることが可能です。

ただし、二年間は継続適用となりますので、いったん選択した後は、二年経過してからでないと取りやめはできません。

3. インボイス制度開始後は「簡易課税がおすすめ」

もし課税方法を選択できる場合には、インボイス制度開始後は簡易課税制度がおすすめです。

日々の取引でインボイスの保存要件を意識するのはかなりの手間となります。
簡易課税制度を選択した場合、そういった作業をしなくて良くなるため、圧倒的に事務作業が楽になります。

また、おそらく今後は簡易課税と原則課税の選択の違いによって、税理士の顧問料や申告書の作成料金などにも差が出てくると思われます。

上記のことを考慮し、大きな出費の計画が無い場合は簡易課税制度を選択するのがよろしいかと思われます。
(美容業の場合、店舗の出店計画があり工事費の出費の予定などがあれば原則課税を検討してみてもいいかもしれません。)

まとめ

  • 簡易課税は条件付きで選択可能
  • 簡易課税を選択すると事務の手間が削減できるためおすすめ

出典

国税庁|No.6505 簡易課税制度

国税庁|No.6509 簡易課税制度の事業区分

国税庁|D1-23 消費税簡易課税制度選択不適用届出手続


消費税の原則課税と簡易課税